退職代行サービスは違法なのか?モームリ捜査から学ぶ合法・非合法の線引き!

「会社を辞めたいけど、上司に言い出せない」「退職を引き留められて困っている」——そんな悩みを抱える方にとって、退職代行サービスは心強い味方として注目されてきました。

しかし、2025年10月、警視庁が人気の退職代行サービス「モームリ」を運営する会社に家宅捜索を実施したというニュースが流れ、多くの人が「退職代行って違法なの?」と不安を感じているのではないでしょうか。

実は、退職代行サービスそのものが違法というわけではありません。問題となるのはどこまでのサービスを提供するかという線引きです。単に退職の意思を伝えるだけなら問題ありませんが、会社との交渉や法律的な手続きに踏み込むと、弁護士法違反に該当する可能性があります。

この記事では、退職代行サービスの仕組みや人気の理由から、今回の「モームリ」事件の詳細、そして利用者が注意すべきポイントまで、わかりやすく解説していきます。

退職を考えている方も、すでに退職代行の利用を検討している方も、ぜひ最後までお読みください。安心して退職するための知識を、一緒に深めていきましょう。

退職代行サービスとは?仕組みと人気の理由

退職代行サービスの基本的な仕組み

退職代行サービスとは、労働者本人に代わって、会社に退職の意思を伝えるサービスです。利用者は電話やLINEなどで退職代行業者に連絡し、必要な情報を提供するだけで、業者が勤務先に連絡を取り、退職の手続きをサポートしてくれます。

一般的な流れとしては、まず利用者が退職代行業者に相談し、料金を支払います。その後、業者が利用者の代わりに会社へ退職の意思を伝え、必要に応じて退職日の調整や私物の返却、離職票の受け取りなどの段取りを進めていきます。多くのサービスでは24時間365日対応しており、即日退職が可能なケースもあるため、「明日から会社に行きたくない」という切羽詰まった状況でも利用できるのが特徴です。

料金相場は、正社員で2万円〜3万円程度、アルバイトやパート従業員であれば1万円〜2万円程度が一般的です。追加オプションとして、未払い残業代の請求や有給休暇の取得交渉などを提供している業者もありますが、これらは弁護士資格がなければ対応できない領域になります。

なぜ若者を中心に人気が高まっているのか

退職代行サービスが若者を中心に支持されている背景には、いくつかの社会的要因があります。まず、パワハラや長時間労働など、職場環境に悩む労働者が増えていることが挙げられます。上司に退職を切り出すこと自体がストレスになり、精神的に追い詰められてしまうケースも少なくありません。

また、人手不足を理由に退職を強く引き留められたり、「辞めるなら損害賠償を請求する」などと脅されたりするケースもあります。こうした状況では、自分一人で退職手続きを進めるのは非常に困難です。退職代行サービスを利用すれば、直接上司と対峙することなく、スムーズに退職できるというメリットがあります。

さらに、転職市場が活況を呈している現代では、「嫌な仕事は早く辞めて、次のステップに進みたい」という考え方が広まっています。特に若い世代は、SNSなどで退職代行の存在を知り、気軽に利用する傾向があります。精神的な負担を減らし、新しいスタートを切るための手段として、退職代行は確実にニーズを捉えているのです。

退職代行サービスの種類と提供範囲

退職代行サービスには、大きく分けて3つの種類があります。まず「民間企業が運営する退職代行」は、退職の意思を伝えることに特化したサービスです。料金が比較的安く、手軽に利用できるのが魅力ですが、会社との交渉や法的な手続きには対応できません。

次に「労働組合が運営する退職代行」があります。労働組合には団体交渉権があるため、退職日の調整や有給休暇の取得交渉など、ある程度の交渉が可能です。民間企業よりも少し料金は高くなりますが、交渉力がある点で安心感があります。

そして「弁護士が運営する退職代行」は、最も幅広い対応が可能です。未払い残業代の請求や損害賠償への対応、パワハラやセクハラの相談など、法律的な問題にも対処できます。料金は最も高額になりますが、トラブルが予想される場合や、法的な権利を主張したい場合には最適な選択肢です。

このように、退職代行サービスには明確な役割分担があり、利用者は自分の状況に応じて適切なサービスを選ぶ必要があります。

警視庁が家宅捜索に入った「モームリ」とは?

「モームリ」の概要とサービス内容

「モームリ」は、株式会社アルバトロスが運営する退職代行サービスで、2022年3月にサービスを開始しました。公式サイトでは累計4万件以上の退職を確定させた実績とノウハウを掲げ、業界内でも急成長を遂げていた注目の企業です。

サービスの特徴としては、電話やLINEで24時間365日相談を受け付け、勤務先への連絡や退職手続きを代行するという、一般的な退職代行の枠組みを踏襲していました。料金は正社員で2万2千円、パート・アルバイトで1万2千円と、業界の中では標準的な価格設定です。

特筆すべきは労働事件に強い顧問弁護士をご紹介という文言が公式サイトに掲載されていた点です。これは、利用者が法的なトラブルに直面した際に、弁護士につなぐサービスを提供していたことを示しています。しかし、この「弁護士紹介」のあり方が、今回の捜査の焦点となりました。

警視庁による家宅捜索の経緯

2025年10月22日、警視庁は弁護士法違反の容疑で、モームリを運営する株式会社アルバトロスの本社(東京都品川区)に家宅捜索を実施しました。同時に、都内にある複数の弁護士事務所にも捜索が入っています。

捜査関係者によると、アルバトロスは退職希望者から依頼を受けた後、会社側との法律的な交渉が必要なケースを弁護士に取り次ぎ、その見返りとして弁護士から報酬を受け取っていた疑いがあるとされています。つまり、弁護士資格を持たない者が、報酬目的で法律事務を第三者にあっせんしていたという構図です。

この行為は「非弁行為」や「非弁提携」と呼ばれ、弁護士法で明確に禁止されています。また、弁護士側も、こうしたあっせんを受けること自体が法律違反となります。警視庁は押収した資料を詳しく分析し、違法な取り次ぎが繰り返し行われていたかどうかを調べる方針です。

運営会社アルバトロスの実態と代表の主張

民間の信用調査会社などによると、株式会社アルバトロスは2022年2月に設立され、従業員数はアルバイトを含めて68人。2025年1月期の売上高は約3億3千万円に達し、2期連続で大幅な増収を記録していました。退職代行市場の拡大とともに、急速に事業規模を拡大していたことがうかがえます。

興味深いのは、朝日新聞が退職代行業界の取材を進める中で、2025年3月にアルバトロスの谷本慎二代表に取材を行っていた点です。その際、谷本代表は「全てオープンにやっている」「弁護士との間でお金の受け渡しはない」と主張し、事業に違法性はないと強調していました。

しかし今回の捜査により、こうした主張と実態が乖離していた可能性が浮上しています。もし報酬のやり取りが実際にあったとすれば、代表の発言は事実と異なることになります。警視庁の捜査結果が注目される理由は、ここにあります。退職代行業界全体の信頼性にも関わる重要な事案として、今後の展開が注視されています。

弁護士法違反(非弁行為)とは?違法になるケースを解説

弁護士法が禁じる「非弁行為」の定義

弁護士法第72条では、弁護士資格を持たない者が、報酬を得る目的で法律事務を取り扱うことを禁止しています。この禁止行為を「非弁行為」と呼びます。法律事務とは、法律的な知識や判断が必要な業務全般を指し、契約交渉、示談交渉、法的な書類の作成などが含まれます。

退職代行サービスに当てはめると、単に「退職します」という意思を会社に伝えるだけなら、法律事務には該当しません。しかし、「有給休暇を消化させてほしい」「未払いの残業代を支払ってほしい」といった交渉を行う場合、これは法律事務に該当する可能性が高くなります。

さらに問題となるのが「非弁提携」です。これは、弁護士資格のない者が、報酬目的で法律事務を弁護士にあっせん(周旋)する行為を指します。今回のモームリのケースでは、この非弁提携が疑われています。弁護士に案件を紹介し、その見返りとして報酬を受け取っていたとすれば、明確な法律違反となります。

なぜ非弁行為は禁止されているのか

非弁行為が法律で厳しく禁じられている理由は、利用者保護のためです。法律知識が不十分な者が法律事務を扱うと、依頼者が本来主張できる権利を十分に行使できなかったり、不利な条件で示談してしまったりするリスクがあります。

たとえば、退職時に未払いの残業代がある場合、適切に請求すれば数十万円から数百万円を受け取れる可能性があります。しかし、法律知識のない業者が交渉すると、会社側に押し切られてしまい、本来受け取れるはずの金額を受け取れないまま終わってしまうことがあります。

また、非弁行為を放置すると、悪質な業者が横行し、法律サービスの質が低下する恐れもあります。弁護士は厳格な試験を経て資格を取得し、職業倫理にも縛られています。この制度を守ることで、利用者は安心して法律サービスを受けられるのです。

退職代行サービスで違法となる具体例

では、退職代行サービスで具体的にどのような行為が違法となるのでしょうか。まず、弁護士資格のない民間業者が「退職日を○月○日に調整してほしい」と会社と交渉する行為は、グレーゾーンとされています。単なる連絡の取り次ぎなのか、法律的な交渉なのかの線引きが難しいためです。

明確に違法となるのは、「未払いの残業代を請求する」「有給休暇の取得を求める」「パワハラの損害賠償を請求する」といった、法律的な権利主張を伴う交渉です。これらは弁護士または労働組合でなければ対応できません。民間の退職代行業者がこうした交渉を行えば、非弁行為に該当します。

また、今回のモームリのように、「弁護士を紹介する」というサービスも注意が必要です。単に弁護士の連絡先を教えるだけなら問題ありませんが、弁護士から紹介料や報酬を受け取っていた場合、非弁提携となります。利用者としては、業者が「弁護士と連携しています」と謳っている場合、その関係性が適法かどうかを見極める必要があります。

利用者が注意すべきポイントと見極め方

適法な退職代行サービスの選び方

退職代行サービスを選ぶ際、まず確認すべきは「誰が運営しているのか」という点です。民間企業が運営している場合、提供できるのは退職の意思を伝えるという「連絡代行」のみです。会社との交渉を希望する場合は、労働組合または弁護士が運営するサービスを選ぶ必要があります。

公式サイトやパンフレットに「弁護士監修」「顧問弁護士」と書かれていても、実際に対応するのが弁護士ではない一般スタッフの場合、法律事務には対応できません。「弁護士が直接対応します」と明記されているか、弁護士の氏名や事務所名が公開されているかを確認しましょう。

また、料金体系も重要なチェックポイントです。相場から大きく外れた格安サービスは、サービス内容が不十分だったり、後から追加料金を請求されたりするリスクがあります。逆に高額すぎる場合も、サービス内容が料金に見合っているか慎重に判断する必要があります。口コミや利用者のレビューも参考にしながら、信頼できる業者を選びましょう。

トラブルを避けるために確認すべきこと

退職代行サービスを利用する前に、必ず確認しておきたいのが「どこまで対応してもらえるのか」という点です。単に退職の意思を伝えるだけなのか、退職日の調整も可能なのか、未払い残業代の請求もできるのか——サービス範囲を明確にしておくことで、後々のトラブルを防げます。

契約前には、必ず利用規約や契約書をよく読みましょう。特に「返金保証」の有無と条件、追加料金が発生するケース、個人情報の取り扱いについては注意深く確認してください。不明点があれば遠慮せず質問し、納得してから契約することが大切です。

また、退職代行業者が会社との間でどのようなやり取りをしたのか、記録を残してもらうことも重要です。後から「言った・言わない」のトラブルになるのを防ぐため、メールやLINEなど文面でのやり取りを保存しておきましょう。退職後に離職票が届かない、私物が返却されないといったトラブルが発生した場合、これらの記録が証拠となります。

もし違法な業者を利用してしまったら

もし利用した退職代行業者が非弁行為を行っていたことが後から判明した場合、利用者自身が罰せられることは通常ありません。弁護士法で処罰対象となるのは、非弁行為を行った業者やそれに加担した弁護士であり、サービスを利用しただけの一般人は対象外です。

ただし、業者が行った交渉が無効となる可能性はあります。たとえば、違法な業者が会社と交わした退職条件の合意が、法的に効力を持たないと判断されるケースも考えられます。そうなると、改めて会社と交渉しなければならず、時間や労力が無駄になってしまいます。

もしこの業者は違法ではないかと疑問を感じた場合は、弁護士会や消費生活センターに相談することをおすすめします。また、すでに違法な業者を利用してしまい、トラブルが発生している場合も、専門家の助言を受けることで適切な対処方法が見つかります。泣き寝入りせず、正当な権利を主張するための行動を取りましょう。

📝参考・退職代行はトラブルが起きやすい?弁護士に相談するメリットを解説

今後の退職代行業界の行方と法整備の動き

業界全体への影響と信頼回復の課題

今回のモームリに対する警視庁の捜査は、退職代行業界全体に大きな衝撃を与えています。これまでグレーゾーンとされてきた「弁護士紹介」や「法律相談の取り次ぎ」といったサービスが、実は違法である可能性が明確になったからです。

適法に運営している業者にとっては、業界全体のイメージが悪化することへの懸念があります。一部の違法業者のせいで、退職代行サービス全体が「怪しい」「危ない」と見られてしまうのは、真面目に事業を行っている企業にとって大きな打撃です。今後、業界団体の設立や自主規制ルールの策定など、信頼回復に向けた動きが加速する可能性があります。

一方で、利用者にとっては、違法業者が淘汰されることで、より安全にサービスを利用できる環境が整うというメリットもあります。今回の事件をきっかけに、退職代行業界が健全化の方向に進むことが期待されています。

法整備の必要性と今後の展望

現在、退職代行サービスに特化した法律は存在せず、弁護士法や労働組合法といった既存の法律で規制されている状態です。しかし、退職代行という新しいビジネスモデルが急速に広がる中、現行法だけでは十分に対応しきれない部分も出てきています。

たとえば、「どこまでが単なる連絡代行で、どこからが法律事務なのか」という線引きが曖昧です。退職日の調整や有給休暇の交渉は、法律事務に該当するのか、それとも事務的な連絡なのか——この判断基準が明確でないため、業者側も利用者側も混乱しています。

今後、退職代行サービスに関する明確なガイドラインや、新たな法律の制定が求められる可能性があります。たとえば、退職代行業者の登録制度を設けたり、提供できるサービス範囲を法律で明確に定めたりすることで、違法業者の参入を防ぎ、利用者が安心してサービスを利用できる環境が整うでしょう。

利用者が持つべき意識とこれからの働き方

退職代行サービスが広がる背景には、日本の労働環境における構造的な問題があります。パワハラや長時間労働、退職の引き留めといった問題が解消されない限り、退職代行サービスへのニーズは今後も続くでしょう。

しかし、本来であれば労働者が自分で「辞めたい」と言える職場環境を作ることが最も重要です。退職代行サービスはあくまで「最後の手段」であり、誰もが気軽に退職を申し出られる社会を目指すべきです。企業側も、人材の定着を図るために、働きやすい環境づくりに力を入れる必要があります。

また、利用者自身も、退職代行サービスを利用する際には「どのような業者を選ぶべきか」という知識を持つことが大切です。違法業者に引っかからないためには、正しい情報を得て、慎重に判断する姿勢が求められます。今回のモームリの事件は、退職代行サービスを利用する際の注意点を改めて認識するきっかけとなるでしょう。

📝参考・行政書士法改正で退職代行サービスはどう変わる?来年施行の …

まとめ

退職代行サービスは、退職を伝えることに悩む労働者にとって、心強いサポートとなるサービスです。しかし、今回のモームリへの警視庁の捜査が示したように、提供するサービスの内容によっては違法となる可能性があります。重要なのは誰が、どこまでのサービスを提供しているのかを見極めることです。

民間企業が運営する退職代行は、退職の意思を伝える連絡代行に限定されます。会社との交渉が必要な場合は、労働組合または弁護士が運営するサービスを選ぶべきです。弁護士資格のない者が法律事務を扱ったり、報酬目的で弁護士にあっせんしたりする行為は、弁護士法違反にあたります。

利用者としては、公式サイトで運営主体を確認し、サービス範囲を明確にしてから契約することが大切です。料金体系や返金保証、口コミなども参考にしながら、信頼できる業者を選びましょう。もし不安がある場合は、弁護士会や消費生活センターに相談することもできます。

今回の事件をきっかけに、退職代行業界全体が健全化に向けて動き出すことが期待されます。同時に、労働者が安心して退職を申し出られる職場環境を作ることも、社会全体の課題として認識されるべきでしょう。退職代行サービスを賢く利用しながら、自分らしい働き方を実現していきましょう。